「海運業界は、環境規制強化の流れに対し先手を打つべく、短期的にはCO2排出量を削減する様々な燃費削減策を早期に導入し、それと同時に、より長期的で根本的なサステナビリティの課題に積極的に取り組んでいく必要があります。」ラジェシュ・ウニ / シナジーグループ 創業者兼CEO シナジーグループ(本社:シンガポール)の創業者兼CEOのラジェシュ・ウニは、今月オンライン開催された、キャピタル・リンク主催第10回年次フォーラム内のセッション(“脱炭素化への道筋”)に登壇し、短期的には、海運業界のサステナビリティを高める数多くの燃費削減策が実行可能だと述べ、以下のように発言をしました。例えば、エネルギー効率設計指標(EEDI)や船舶エネルギー効率管理計画書(SEEMP)の改善は、短期的に排出量削減を可能にするだけでなく、技術面や規制面での課題を持つ船主と技術的専門性を持つ企業の協力の機会を生むことにもつながります。これまで多くの時間を割いてきたEEDIや、SEEMP以外にも、短期的に利用できる施策はまだ多くあります。私たちは負の消費電力であるネガワット
*に目を向ける必要があります。なぜなら、エネルギーをどう使うかよりも、エネルギーの節約方法に注目する必要があるからです。(*ネガワット:需要家の節約により余剰となった電力を、発電したことと同等にみなす考え方) また2050年までに温室効果ガス排出量を50%以上削減(2008年比)することを目標に掲げる国際海事機関(IMO)に対しても、脱炭素化のためのイノベーションを促進し、船主やオペレーターから見た持続可能な選択肢が増えるインセンティブを提供する、新しい規制の枠組みを求めました。利用可能な選択肢の少なさの一例として、現在重油を燃料とするアフラマックスタンカーが2030年のIMO目標(平均燃費40%改善、2008年比)を達成するためには、LNG燃料の利用、排出ガスの再利用及び排出CO2の回収の他に施策がほとんどありません。短期的解決策としてのCO2の回収は必至だと感じていますが、IMOは、2023年までに、より信頼性のある計画を策定する必要があります。IMOが解釈に幅のあるガイドラインを定める中、恐らく私たちが望んでいるものは、炭素循環サイクル全体を、より学術的で、より厳格な枠組みに整理することで、私たちがより具体的な課題を設定でき、更には潜在的な解決策を見つけられるようになることです。世界中でコロナウイルスが終息すれば、海運業界に対し、サステナビリティ実現に向けて、さらに抜本的な対応を求めるよう圧力の矛先が向くでしょう。将来的にはより持続可能な燃料への移行は避けられませんが、その前に、船主や管理会社が排出量を削減できる道筋も多く存在すると考えています。例えば、船舶の設計・建造は船舶のライフサイクル全体での排出量削減を目的としたものに改善することができます。港湾の運営は、より効率性を向上することができます。テクノロジーやデジタル化は船舶の燃料消費量を低減することができます。私たちのように、“技術的な知見を持つパートナー企業”を自負するものにとって、脱炭素化は大きなチャンスです。新たな環境規制の影響は多岐にわたると予想し、私たちはこの3、4年ほど、多くの時間と労力をこの問題に投じてきました。こうした規制の動向は、インフラ全体に影響を与えます。既存船へのレトロフィット対応も必要ですし、新たな船型開発も必要になるでしょう。コンピテンシー、人員、プロセス、ビジネスモデル、そしてその育成や開発手法の改善など、多くに関係します。また、持続可能な未来のために、私たち全員が共同して取り組むべきものだという認識を作り、浸透させることも必要です。シナジーグループが脱炭素化に関して行う研究開発投資の対象は、実際に排出量削減が実現可能な領域に集中させています。推進時の抵抗を空気潤滑を利用して低減する方法はいくつかあり、100%有効な空気潤滑は28%の抵抗低減をもたらすという結果が示されています。私たちが取り組んでいるのは、安定したナノバブルを電気化学反応で発生させ、付着物を除去する方法です。私たちは大手コンテナ船運航会社と速度最適化の取り組みも行っており、200回のSMARTShipTM**を利用した航海で9%の燃料最適化(CO2約8,000トンの削減に相当)を実現しました。このように、長期目標に取り組む前に、小さくとも実現可能な方策が多くあります。(**Alpha Ori Technologies社が開発したデジタル化製品) 脱炭素化は大きな課題であると同時に、大きなチャンスでもあります。船舶を管理する者として、そして一個人としても、このテーマについて積極的に考えているのは、この問題に取り組むことが純粋に正しいことだと思えるためです。適切に取り組めば、必ず解決できるでしょう。